浄國寺白蛇伝説

東根の本町通りに、浄国寺っていう寺があるべ。そう、そう、古い山門と境内に大きな銀杏の木がある寺だ。
むかし、むかし、四百年以上も昔のこと。
東根に里見という殿様がおってな。そりゃぁ大変信心深い殿様で、あるとき、お寺を建てることになった。
そこで、殿様は、磐城の国から深観という坊さんをお城に招いて、
「和尚、儂の母上を供養する寺を建てたいのじゃが、城下の者の心のよりどころとなるような寺を建てて欲しい」といったそうな。
「判りました。大変良いお考えですな。いいお寺を造りましょう」
そう答えた和尚は、さっそくお寺を建てる場所を探したと。

何日か、お寺を建てるところを探し回った和尚が、お城から、一日町、八日町を通って仲町というところに来たときだ。町の南の方に小さな林があって、銀杏の木が二本ならんで生えているのが見えた。
和尚が、銀杏の生えているところまで行ってみると、小さな沼があり、小さな花をたくさん咲かせている草が一面生い茂っていて、沼の近くに小さな祠があった。
池の側に腰を下ろして、一休みしていると、風もないのに、さわさわと草がすれる音がし、「和尚さま、和尚さま」と呼ぶ声がする。和尚が振り返ってみると、とても美しい一人の娘が立っていた。
「何か、わしに用かな」
「和尚さまは、お寺を建てる場所を探しているのではありませんか」と涼やかな声で娘は尋ねた。
和尚は不思議に思って
「そのとおりじゃが、どうして判ったのかな」と娘の顔をのぞき込むと、
「殿様から頼まれたのでしょう。この場所になさいませ」そういって、娘は消えるように走り去っていったと。
「寺を建てる話は、まだ、わしと殿様以外に知る人はいないはずなのに」と和尚は不思議に思って、しばらくは娘の消えた方向を見送っていた。
そして、和尚が沼から離れ、祠の方を眺めると、一匹の真っ白い蛇がとぐろを巻いて、和尚を見つめていたと。

その夜のことである。
和尚が床についてしばらくすると、
「和尚殿、和尚殿」と和尚を呼ぶ声がする。
「誰かな。こんな夜中に私を呼ぶのは」
と和尚が目を覚まし、布団から起きあがると、先程の娘が琶を抱え、眩い光に包まれて立っておった。
聞いたこともないような心地よい調べの中、娘は、
「和尚殿、私は、あの祠に祀られている弁財天です」といったと。
和尚が、驚いて「弁財天様っ」というと、
「和尚殿があの沼の辺りにお寺を建ててくだされば、もともと仏に仕える私としては、このうえもない喜びです。どうか、私の願いを叶えてください。そうすれば、私は白蛇となって、何時までもお寺をお守りしましょう」
そういって、すうーっと消えてしまったと。

翌朝、この不思議な出来事を和尚は殿様に一部始終話した。
すると殿様は、
「それは、きっと仏様のお導きに違いない。和尚、是非その場所にしてくれ」といって、早速、寺を建てることにしたと。
トンテンカーンと工事が始まったある日、和尚が沼のほとりに行ってみると、祠の側で、とぐろを巻いた白蛇は、工事の様子を見守っているようであった。
寺が出来上がった日、和尚は、寺の名前を「東根が栄えるようにという殿様の願いを込めて、東栄山。弁財天様に守られている清らかなところであることから、浄国寺。東栄山浄国寺」と名付けたという。